赤い瞳に今日も溺れる―飢えた漆黒の吸血鬼―
触るなと言わんばかりに腕を振り払われた。
かと思えば。
『何度も何度も……聞こえなかったのか‼』
『いっ……』
両手首を掴まれて、近くの机の上に押し倒された。
頭と背中、握られている手首に痛みが走り、眉間にシワを寄せる。
『……なんで俺じゃねーんだよ』
『つば、さ……?』
『なんでアイツなんだよ……‼』
怒鳴り声が吐かれたと同時に、首元のリボンが引きちぎられた。
『俺のほうがずっと傍にいたのに……っ』
ドクンと、胸が嫌な音を立てた。
荒い息遣い、上昇する体温、手首に食い込む鋭い爪。
怯える私を映している悲しげな瞳は、いつもの黒じゃなくて。
『翼……まさか……』
金色がチラつく琥珀色。口元には尖った牙。
頭には毛に覆われた耳が立っていて。
『────俺のものにしてやる』
私の知っている彼の姿はどこにもいなかった。