赤い瞳に今日も溺れる―飢えた漆黒の吸血鬼―
キャミソールに手をかけられた途端、一気に恐怖が襲ってきて必死に抵抗する。
肩を押すなり、顔をつねったりしたものの、全然止まってくれなくて。
身をよじった時に尖った爪が胸元を引っ掻き、彼の爪先に赤い血が付着。
翼は再び手首を拘束し、口内に舌を入れてきた。
どうして……こんなの間違ってる。
痛みと悲しみが混ざり合って、涙が頬を伝う。
ダメだ。このまま呑まれてしまったら、私も翼も……。
『ゔっ……!』
暴走する彼を止めようと、一瞬の隙をついて舌に噛みついた。
『ってぇ…………えっ? 風花?』
痛みに顔を歪ませた翼が両手と唇を離した。
目の前で我に返り、黒い瞳を丸くして固まっている。
『えっ、嘘っ、俺……っ』
状況を理解して青ざめていく彼を押しのけて、逃げるように部屋を後にした。
振りほどけないほどの強い力も。
琥珀色の鋭い眼光も。
かすかに残った血の味も。
数年経った今も鮮明に覚えてる。
あの日を境に、私達の関係は壊れてしまったんだ──。