赤い瞳に今日も溺れる―飢えた漆黒の吸血鬼―

それに……。



『大丈夫、ここには翼はいない。だから安心しろ』

『うぅっ……ああぁっ……』



取り乱して千冬に抱きしめられた時、動揺することもなく、彼に応えるように背中に腕を回していた。



『──僕らはあなた達とは性質が違いますからね』



文化祭の日に沢村先輩から言われた、刺々しい言葉を思い出す。


千冬と風花は人間で、自分は吸血鬼。

一見同じ見た目だけど、性質も体質も違う。


理解度も、同じ人間同士のほうがあるはず。

ずっと傍にいたのならばなおさらだ。



「まだ俺のこと怖いみたいだし、いつ回復するかもわからないなら、お前に任せたほうが治りも早いかもしれない。そのほうが、風花も苦しまずに済むと思うから」



たとえ顔を合わせられなくても、電話やドア越しで話せている。

時間が経てば、きっとまた戻れるはず。


大好きだからこそ、大切だからこそ──風花が元気になれて、幸せになれるほうを選びたい。
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