赤い瞳に今日も溺れる―飢えた漆黒の吸血鬼―


痛みはないと知って安心し、フッと体の力を抜いた。

その瞬間。



「ひゃっ」



傷口に広がる、少し生々しくて熱い感触。

痛みもなければ、舐められているだけ。


なのに、身体中に電気が走ったみたいにビリビリして、舌先が動く度に体がビクッと揺れる。


うぅっ、変な声出ちゃった。
千冬に出ていってもらって正解だったかも。



「終わったよ」

「ありがとう……」



ものの数秒で治療は終了。


ドキドキしすぎて全然リラックスできなかった……。

どうして? 昔はビリビリすることなかったのに。

覚醒前と後じゃ、感覚が違うのかな。



「……ごめん、一口だけちょうだい」

「えっ? ひっ……」



呼吸を整えていると、赤く変色した瞳と目が合い、そのまま吸血された。

手の甲とは違う感覚に、再び小さく声が漏れる。


嘘っ、指先からだなんて……っ。

さっきので食欲刺激させちゃった……?



「ごちそうさま。ありがとう」
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