星空とミルクティー
「今度、またごはんでもどうですか」
「いいですね、ぜひ」
「では、今週の金曜日にでも。なにが食べたいですか?」
社交辞令で答えたのに、話がどんどん進んでいく。
なにが食べたいかを聞かれて、この前のコース料理以外ならなんでも、と思う。
見られながら食事をするのは食べた気がしない。
いやでも、よく知らない相手と食事に行くこと自体、面倒くさい。
来週の金曜日は予定があることにしてしまおうか。
「あー、今週はすみません、実家に帰ることになってて」
「そうなんですか。では来週はいかがですか」
「……えーっと、」
来週の予定を考える。考えるけど出てこない。
「なさそうですね」
電話の向こうで石川さんが笑った。
「来週の金曜日、絶対忘れないでくださいね」
ぐっと喉が鳴る。
もしかしたら実家に行くという嘘も見破られているのではないか。
携帯を持ったままうなずく。
相手に見えるわけじゃないと気づいて、声を絞り出す。
「……わかりました」
「楽しみにしてます」
プツリと通話が切れた。
電話だけなのに緊張する。美顔ローラーの手もいつの間にか止まっていた。
折り畳みテーブル横のゴミ箱に目をやる。
くしゃくしゃに丸めた名刺を拾って、テーブルの上で丁寧に皺を伸ばす。
無数の折り目と摩擦のせいで石川冬弥の名前がかすれて読めなくなっていた。