星空とミルクティー

 今週の金曜日、石川さんについた嘘を本当にするために、仕事終わりに家と会社の間にある実家に立ち寄った。

実家といってもカフェ兼バーだけど。

四角いコンクリートの3階建ての低層ビルにレンガを張り付けたような建物。

その1階部分が店舗になっていて2、3階部分が住居になっている。あたしも20歳までここに住んでいた。



 カウベルのような大きな鈴のついた重たいドアを押し上げて、今この時間バーになっている店の中に入る。



「……汐か、お帰り」
「おう」


 真っ黒な髪を後ろになでつけてオールバックにした父親が、カウンターに立っている。

カフェの業務が忙しかったのか、バーの時間帯なのに服装が白シャツに紺色のエプロンのままだ。いつもならタキシードのようなベストを着ているのに。


 金曜日のまだ早い時間でも、カウンターには2、3人の客がすでにアルコールをたしなんでいた。

何度も見たことあるおじいちゃん客が、「やぁ、汐ちゃん」とあたしの顔を見てグラスを上げた。



「こんばんは」

「どうしたの、いきなり来て」

「なんもないんだけど、あ、皿洗う」



 仕事用のバッグをレジの真下に置いて、ブラウスの袖を捲る。

昼の名残なのかデミグラスソースやトマトソースのべったりついた皿が何十枚も重なって、水と油の張ったシンクの中で待っていた。



「航平さん、よかったねぇ、親孝行の娘さんで」

「うん」



 常連のおじいちゃんがニコニコと父に話しかけて、父は謙遜せずに目を細める。

いい年して褒められるのがむずがゆくて、沈んだ皿を引き上げながらスポンジを動かす。

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