星空とミルクティー


 最後の1枚を拭き上げて、食器棚に戻す。

あたしが生まれる前から使っているという年季の入ったフォークやナイフも、曇りを取って引き出しの中にしまう。



「助かった、ありがとう」

「どういたしまして」

「汐、何か食べていく?」

「いいよ、せっかく皿洗ったのに、洗い物増えるじゃん」



 ブラウスの袖を直して、レジの真下、床に直接置いていたバッグを肩にかけてから「じゃあね」とカウンターを出る。

重たいドアを体当たりの格好で押すと、真横から腕が伸びて力を貸してくれた。



「汐、どうした?」



 一緒に店の外に出て心配そうに見つめてくる父。

その目を見ると、あたしはいつも泣きそうになる。

 いつも心配かけてごめんなさい。あのとき迷惑ばかりかけてごめんなさい。

 実家に戻るといつも言おう言おうと思うのに、やっぱり声が出ない。



「なんもねーよ」

「次は、昼から帰っておいで」

「わかった。ダディも店忙しかったらいつでも言って。土日なら手伝えるから」



 鼻をすすって父から離れる。

両親が離婚して思春期に突入して、一通り悪の見本のようにグレて、自分の身を反省したときには時間が経ちすぎたせいでいつしかとうとう「お父さん」と呼べなくなった。

だから、ダディ。家族なのに、どうやって接したらいいのかわからないなんて笑える。

でも自分が招いた結果だから仕方ない。






 その日、父の店から帰る途中のコンビニで久しぶりに平野君を見た。

本の立ち読みをしているのか、目線を下に向けていたからあたしには気づかなかった。

前に会ったときと髪型がまた変わっていた。ツンツンじゃなくて、サラサラに戻っていた。


 話しかけたかったけど、コンビニまでの数メートルがなぜか遠く感じて足が動かなくてやめた。また変なことを言ってしまいそうだし。


 歩き出したあたしの目の前を、白い軽自動車が猛スピードで横切ってコンビニの駐車場に停まる。

危ねえなと運転席から出てきた人物を睨むと、約半年ぶりに現れたマダムが車のドアを叩きつけるように閉めるのが目に入った。


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