星空とミルクティー
平野君のすぐ後にコンビニを出て、一定の距離を保ちながら後ろを歩く。
細い体がときどき歩くスピードを緩めたり止まったりしながら、上を向く。
なにがあるのかと思ってつられて上を見ると、見たことないくらい綺麗な丸い月がぽっかり浮かんでいた。
「わ、すげえ」
月なんてまともに見たのは初めてだ。
こんなに大きくて綺麗なものだったか。
月もそうだけど、星も、こんなに数は多かったっけ。知らなかった。
目線を前に戻すと、一緒になって上を見ていたはずの平野君が体ごと振り返ってあたしを見ていた。
「すげえ」なんて言ってたの、聞かれたかもしれない。恥ずかしくなってごまかすようにそばに駆け寄る。
「月、すごい綺麗だね。これ見てたの?」
「……はい。小さい頃、よくベランダから月とか星とか見てて、クセで」
「へぇ。月がこんなに大きいって知らなかった。いいもん見た」
初めて平野くんから挨拶以外の長い文章を聞き出せた。
案外、普通に喋っている。
それから、コンビニから家までの短い距離、初めてあたし達は会話らしい会話をした。
学生だと思っていた平野君は、高校を卒業したばかりの社会人で、引っ越して来た日は、高校の卒業式が終わった直後だったらしい。
「やっと生活リズム?っていうのを取り戻しました」
ふふと小さく笑う横顔を見て、はっとした。
これが母性本能をくすぐられるというやつか?
初めて見た平野君の笑顔は女の子みたいに可愛くて、ガラス球みたいだと思った目にもちゃんとした生気が見えた。