星空とミルクティー
「おら、終わったぞ」



 ペシっとかるく頭をはたく。
後頭部を押さえた真雪が笑いながら振り返った。



「ありがとう」



 タレ目がちの人懐っこい笑顔を向けられて、つられて笑ってしまう。



「ここに来たときのこと思い出した。あのときも汐、ドライヤーかけてくれたよね」

「ん? そうだな」

「俺、めちゃくちゃ恥ずかしくて情けなくて死にそうだった」

「そうなのか?」



 ドライヤーのコードを束ねながら、あのときのことをまた思い出す。
真雪は居心地悪そうに縮こまりながら、袖をいじってたっけ。



「全部汐のおかげだよ。あの日、汐に拾われてよかった。汐が俺のお隣さんでよかった」

「……なんだよ、改まって。気持ち悪いな」



 悪態をつきながら笑ってみせるけど、さっきから鼻の奥がつんとして痛い。

ここで「ありがとう」なんて言われたら、間違いなく涙腺が決壊する。



「ほら、さっさと寝るぞ。明日、あたしは仕事なんだから」



 ドライヤーをテーブルの上に置いて、テレビを消して部屋を暗くする。
気づかれないように鼻をすすって、ベッドに潜り込んだ。



「汐?」

「……なんだよ」


 暗闇の中から名前を呼ばれて苦笑する。

 いつにも増してなかなか寝ようとしない。今日が最後だからか。
真雪でも少しは名残惜しいとか思ってくれたりするんだろうか。

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