星空とミルクティー
さっき買ったばかりの缶ビールを開けて一気に飲み干す。
バラエティ番組を観るけど内容がさっぱり入ってこない。
せめて着替えようかと立ち上がると、部屋の隅に犬のぬいぐるみが転がっているのが目に入った。
誕生日プレゼントとして真雪にあげたやつだ。
中の綿が偏ってクタクタになったぬいぐるみを拾い上げる。
「……なんだよ、いらねえのかよ」
一人言を呟いて、ぬいぐるみをベッドに放り投げる。
その瞬間、部屋の呼び鈴が鳴った。
驚いて固まっていると、また音が響いた。
足音を立てないように玄関まで近づいてドアスコープを覗いてから、静かに鍵を回してドアを開ける。
「……はい」
「あ、汐。俺、忘れ物した。ぬいぐるみ」
風呂上がりのときみたいに、パーカーにスウェットの真雪が立っていた。
「あぁ、ちょっと待ってて」
部屋に引っ込んで、ついさっきベッドに放り投げたぬいぐるみを取って真雪に手渡す。
いらないわけじゃなかったのか。ただ忘れてただけか。
「今帰ってきた?遅かったね」
コートのままのあたしを見て首を傾げる。
「ん、まぁな。真雪はちゃんとご飯食べた?」
「うん。一人分だけ作るのって難しいね」
両腕でぬいぐるみを抱きながらニコニコと真雪が笑う。
あたしだけ寂しがっていて、真雪は平気そうだ。
むしろ再スタートした一人暮らしを楽しんでいるふうにも見える。
いらなかったのは、あたしのほうか。
「……あ、ドア、開けっ放しだと部屋の中寒くなるね。じゃあ、おやすみ」