素直にさせないで
職員室を出ると目の前では、春には桜が満開だった木が細々と寂しそうに佇んでいた。
大きなマフラーの中に顔を埋めながら、はぁ…と白い息を吐き出し、空を見上げた。
あー…、こんな風に一人で帰るの久しぶりだ…。
いつもうるさいのが隣にいて…。
耳元で大きな声で話しかけてくる奴がいて、
いつの間にか当たり前だったことが、
いつの間にかそうじゃなくなるんだな。
黄昏ていると遠くの体育館から聞こえてきたバッシュの音にブザーの音、そしてボールの音に誘われるように私はこっそりと二階席の方へ上がって手すりに寄りかかり見ていた。
「なんだ。不破今日中学の練習行ってないのか。」
久しぶりに体育館で見た不破の姿を見てると、
「ちげぇよ!!おめぇそんなんじゃ春期大会勝てるわけねぇだろうが!!」
引退したのにも関わらず、後輩達に怒鳴り散らしながら体を張って教えている。
くす…。妙なとこで後輩思いなのと、バスケは一切手を抜かず本気なとこ、そこはアイツの唯一の本当に唯一のいいとこなんじゃないか。と見直してやってると、ゲームも交じって本気で参加して、
ピー!!
勝手に審判の笛を鳴らしてファウルまで自分で取っている・・
「ファウルじゃないだろ・・卑怯者が。」
やっぱアイツのいいとこなんかないな。と軽蔑の眼差しを遠くから送る・・・。