素直にさせないで




パラパラ…

顔にも体にもそぐわないアイツの綺麗な両手の中で、弾けるような音を立てて転がし、感触を確かめた後、二回ボールを床に叩きつけて、

リングを射ぬくように真っ直ぐに睨み、膝を曲げてリングへ放りこむ手から離れてく瞬間のボールの音が好きだった。

瞼を閉じていても分かる。
アイツがフリースローラインでボールを放つ時のあの集中力と、あの音。

傲慢でガサツでうるさくて大嫌いなアイツの、唯一、ほんの唯一の好きなところをあげるとしたら、あの繊細すぎる沈黙の瞬間。


もう、聞けなくなるのか。

アイツの声はもう聞きたくないけど、アイツのあの音だけは、聞けなくなると思うと寂し…


目を開けた瞬間、下から湊がこちらに気づいたようで、
「しー!しー!」と私が身振りしアイコンタクトをすると、軽く微笑んで頷いてくれ、何もなかったかのように練習に戻ってった。


< 84 / 106 >

この作品をシェア

pagetop