素直にさせないで
パラパラ…
顔にも体にもそぐわないアイツの綺麗な両手の中で、弾けるような音を立てて転がし、感触を確かめた後、二回ボールを床に叩きつけて、
リングを射ぬくように真っ直ぐに睨み、膝を曲げてリングへ放りこむ手から離れてく瞬間のボールの音が好きだった。
瞼を閉じていても分かる。
アイツがフリースローラインでボールを放つ時のあの集中力と、あの音。
傲慢でガサツでうるさくて大嫌いなアイツの、唯一、ほんの唯一の好きなところをあげるとしたら、あの繊細すぎる沈黙の瞬間。
もう、聞けなくなるのか。
アイツの声はもう聞きたくないけど、アイツのあの音だけは、聞けなくなると思うと寂し…
目を開けた瞬間、下から湊がこちらに気づいたようで、
「しー!しー!」と私が身振りしアイコンタクトをすると、軽く微笑んで頷いてくれ、何もなかったかのように練習に戻ってった。