好きだった同級生に告白された
 菊池さんが歌い終わると得点が出た。

「わぁ惜しい、九十一点だって」

 言葉ほど惜しくはなさそうな口調で菊池さんが言う。悪戯っぽい目つきで本田くんを見つめながら彼女は続けた。

「私が勝ったら婚姻……ゴホゴホ、ううん何でもない」
「……」

 菊池さん。

 今、婚姻届って言おうとしてたよね?

 つっこみたい衝動をどうにか堪え、私は彼女からマイクをもらった。一瞬、彼女から「私に勝てる?」という念のこもった視線が刺さるが気づかなかったふりをする。

「大野、がんばれよ」

 本田くんから声がかかり私の心音が一段上がる。そのせいか始まった曲に乗り遅れた。

 あっ、と思うもリズミカルな曲はどんどん進んでいく。胸のどきどきが嫌なペースで曲との齟齬を生んだ。

 気持ちばかり焦るが声まで震えてくる。音程を完全に外した歌は本人の私でさえ酷いと思えるものだった。
 
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