あなたに触れたくて

決意

あれから1年経った今、また彼氏が出来ていた。彼の名前はハヤテ。

それまでの1年間は気持ち的に前の彼氏を吹っ切れなくて、学校で見かけるたびに涙を流すという毎日を送っていた。

だから、ハヤテとは無理してでも手を繋ごうと思った。

ハヤテとは順調に付き合っていけた。付き合って半年たった頃、ハヤテは突然

「どうして前の彼氏と手繋がなかったの?」

と聞いてきた。前の彼氏とハヤテは仲がいいから、きっとそこから聞いたんだろう。

ハヤテなら私のことを言ってもいいかなと思った。でも、また、嫌いって勘違いされて振られるのも怖かった。

「怪我が続いて、繋げなかったの。でも、それがダメだったみたい。怪我をする私が悪いもんね。」

笑って流した。もちろん言ったことは嘘。笑ったのも作り笑い。

「そっか、じゃあ俺とは繋いでくれるよね?」

ハヤテはそう言って左手を出てきた。

「…うん。」

そう言って私は自分の右手でハヤテの手を軽く握った。それに対し、強く握り返してきたハヤテ。またあの時の吐き気に見舞われたが、振られる恐怖の方が大きかった。

少しブツは出てきたけど、少しだったことを幸いに、飲み込んだ。

「こんなに可愛い彼女と手を繋げなかったなんて、あいつは不幸せ者だな。」

ハヤテは笑いながら言った。

それに対して私は

「ハハハ…」

としか返せなかった。本当のことを言えなかった自分に嫌気がさした。それと同時に、バレてしまったらまた同じ目に遭うという恐怖も込み上げてきた。

家に着いた私はすぐに洗面所へ向かった。ハンドソープを5プッシュ。大量に出てきたハンドソープを一滴も落とさないようにして、手を洗った。

『このまま頑張れば慣れるかも。』

そんなことをふっと思った。

大量に泡立ったハンドソープを水で流し、洗面所の電気を消した。そして私はあたかも何もなかったかのような顔でリビングへ向かった。
< 3 / 26 >

この作品をシェア

pagetop