自分の恋より、他人の恋
視界いっぱいに時雨さんがいて、目を瞑っている。
私の目に時折彼のシルバーアッシュの前髪が掛かってくすぐったい。
冷たかったはずの唇はだんだんと熱を持ち、彼と同じ温かさまで上昇した。
重ねるだけ、触れているだけのキスは私からした時よりも長く、10秒は触れ合っていたんじゃないかと思った。
ようやく離れて言った彼の唇だけど、どこか寂しいと思ってしまったこの気持ちを海の中にでも沈めてしまいたいと思った。恥ずかしくて仕方ない。
「泣き止んだ」
「ぇ…あ、本当だ」
どうやら時雨さんがしたキスは私の涙を止めるためのものだったらしく、彼は涙の流れた跡がある頬を優しく撫でると、そこにもリップ音をたてながらキスを落とした。
してやったというように時雨さんは妖艶に微笑むと「行こうか」と言い、平然とまた歩き出した。