自分の恋より、他人の恋
逃げるようにあの場を離れてから、教室でぼーっとして意識の遠いところで「さよなら」と聞こえたかと思ったら周りには誰もいなかった。
___違う。
「小夜、何かあった?」
私と時雨さん以外、誰もいなかった。
その空間には私たちだけで、誰もいない世界に取り残されたかと錯覚するほど静かだ。
沈んでいく夕日が儚く、私と彼を照らす。
「もう皆帰ったけど、帰らないの?」
「帰りますよ」
時雨さんが先に帰ってくれたら。
今、貴方と正門まで一緒に歩ける気がしないんです。
「じゃあ一緒に帰ろう」
そんなことこれっぽっちも知らない時雨さんは、そんな残酷なことを口にした。