自分の恋より、他人の恋



「何してるんですか」




持ち上げられた前髪によって視界はよりクリアに。
前髪がないせいで額がスース―する。




「何って、小夜の事見ようと思って」




こうしないと見えないでしょ、と目の前の彼は優しい顔をしながらそう言った。



不意打ちすぎるその表情に今度は私がドキドキする番で、ちょっと赤くなってるんじゃないかと心配になった。




今が夕刻時でよかったと心から思う。茜色の光が私を照らして頬の赤みを少しでも誤魔化してくれるから。


「ねぇ、訊きたいんだけど」


というかずっと気になっていた、と言う彼の質問に耳を傾けると「どうして前髪をこんなに伸ばしてるわけ?」と訊かれた。



前髪を伸ばしているわけ、か。




いくつか、理由はあるんだけど。




「面倒くさいから、ですかね」




その理由の中にこれが含まれていたりする。




「それが一番の理由?…なわけないよね」





まぁ、それが一番?と言われたら答えはNOなんだけど、一番の理由を言うのは少しだけ恥ずかしいからってのが大きい。



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