金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
芳乃は買ってきた薔薇の花束をダイニングテーブルの花瓶に飾った。大輪の白薔薇と葉の鮮やかな緑のコントラストが美しい。気品があって爽やかで、それでいてゴージャス。
「まるであの女性みたいね」
ふいに、この美しいものをぐちゃぐちゃに壊してしまいたい衝動にかられ、芳乃は花瓶を持ち上げる。思いきり床にぶちまけ気のすむまで踏みにじったら、どんな気分だろうか。
一瞬そんなことを考えたが、すぐに我に返った。割れた花瓶のカケラを集める自分の姿が脳裏に浮かんだからだ。匠と里帆子が抱き合っている、同じ時間に自分はひとり掃除をするなんて……これ以上に惨めなこともないだろう。
芳乃は花瓶をゆっくりとテーブルの上に戻した。ふと霧斗の笑顔を思い出す。想像のなかで、彼はほっとしたように微笑んでいた。
「そうね、霧斗くんがせっかく作ってくれたものだものね」
花に罪はないし、芳乃がそんなことをすれば美しいアレンジに仕上げてくれた霧斗も悲しむ
はずだ。馬鹿なことをしなくてよかった。本心からそう思っているはずなのに……心の奥底で
もうひとりの芳乃がささやく。
「そんなつまらない性格だから、匠さんは今日も帰ってこないんだわ」
「まるであの女性みたいね」
ふいに、この美しいものをぐちゃぐちゃに壊してしまいたい衝動にかられ、芳乃は花瓶を持ち上げる。思いきり床にぶちまけ気のすむまで踏みにじったら、どんな気分だろうか。
一瞬そんなことを考えたが、すぐに我に返った。割れた花瓶のカケラを集める自分の姿が脳裏に浮かんだからだ。匠と里帆子が抱き合っている、同じ時間に自分はひとり掃除をするなんて……これ以上に惨めなこともないだろう。
芳乃は花瓶をゆっくりとテーブルの上に戻した。ふと霧斗の笑顔を思い出す。想像のなかで、彼はほっとしたように微笑んでいた。
「そうね、霧斗くんがせっかく作ってくれたものだものね」
花に罪はないし、芳乃がそんなことをすれば美しいアレンジに仕上げてくれた霧斗も悲しむ
はずだ。馬鹿なことをしなくてよかった。本心からそう思っているはずなのに……心の奥底で
もうひとりの芳乃がささやく。
「そんなつまらない性格だから、匠さんは今日も帰ってこないんだわ」