金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
芳乃は純粋に驚いていた。マリはしょっちゅう夫との仲を自慢するような話をするし、夫婦円満なのだと思っていた。
「私、里帆子さんがマリさんのいる場でわざと不倫の話をしだしたのかと思って焦っちゃった」
「考えすぎよ、きっと」
その言葉は嘘ではないと思う。少なくとも、あのときの里帆子の頭にマリはいなかったはずだ。あれは……あの強烈な悪意は、間違いなく芳乃に向けたものだ。
「そうかなぁ。だって里帆子さんて、いかにも不倫を毛嫌いしそうじゃない? 良妻賢母の代表みたいな人だし、怒ってマリさんをグループから追い出す気なのかと思って」
腹の底から笑いがこみ上げてくる。
「どうしたの、芳乃さん」
「ううん。なんでもないの」
佳乃は苦笑するにとどめて、否定も肯定もしなかった。
霧斗の言う通りだ。不倫なんてちっとも特別なことじゃない。ありふれた、陳腐なものなのだ。マリも、里帆子も、そして芳乃も。世間の羨む幸せな奥様なんてどこにもいない。
だからこそ、幸せ自慢でマウントを取りたがるのだ。無いものねだりは女のさがだから。
「ただいま」
その夜は珍しく匠が十時前に帰宅した。
「早いのね。食事は?」
「軽いものをなにか頼む」
佳乃は自身のスキンケアを途中で切り上げて、キッチンへと向かう。ほぼゴミになるのはわかっていて、それでも匠の食事は毎晩用意していた。今日の分は無駄にせずに済みそうだ。
「私、里帆子さんがマリさんのいる場でわざと不倫の話をしだしたのかと思って焦っちゃった」
「考えすぎよ、きっと」
その言葉は嘘ではないと思う。少なくとも、あのときの里帆子の頭にマリはいなかったはずだ。あれは……あの強烈な悪意は、間違いなく芳乃に向けたものだ。
「そうかなぁ。だって里帆子さんて、いかにも不倫を毛嫌いしそうじゃない? 良妻賢母の代表みたいな人だし、怒ってマリさんをグループから追い出す気なのかと思って」
腹の底から笑いがこみ上げてくる。
「どうしたの、芳乃さん」
「ううん。なんでもないの」
佳乃は苦笑するにとどめて、否定も肯定もしなかった。
霧斗の言う通りだ。不倫なんてちっとも特別なことじゃない。ありふれた、陳腐なものなのだ。マリも、里帆子も、そして芳乃も。世間の羨む幸せな奥様なんてどこにもいない。
だからこそ、幸せ自慢でマウントを取りたがるのだ。無いものねだりは女のさがだから。
「ただいま」
その夜は珍しく匠が十時前に帰宅した。
「早いのね。食事は?」
「軽いものをなにか頼む」
佳乃は自身のスキンケアを途中で切り上げて、キッチンへと向かう。ほぼゴミになるのはわかっていて、それでも匠の食事は毎晩用意していた。今日の分は無駄にせずに済みそうだ。