金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
煮魚、味噌汁、サラダと小鉢をいくつか。芳乃が用意したそれらに、匠は当然のような顔で箸を伸ばす。料理の礼を言われたのは、新婚の最初の一週間だけだ。
毎晩「ありがとう」「おいしい」と声をかけてくれる夫など、本当に実在するのだろうか。
「そういえば、仕事が落ち着いたからしばらくは早く帰れる日が増えるかもしれない」
「そう……」
里帆子の夫に怪しまれでもしたのだろうか。夫の早い帰宅を喜ぶ気持ちは、もう芳乃には残っていなかった。霧斗に会えなくなるかもしれない。そのことを少し寂しく思うだけだ。
その時、リビングの電話が鳴った。相手は父親だった。
「お父さん。どうしたの? 珍しいわね」
『来週のお前の誕生日に家族で食事をしようと思ってな。匠くんにも伝えてくれ』
「ありがとう。でも子供じゃないんだし」
両親に祝ってもらうような歳でもないだろう。それに三十九歳の誕生日なんて、嬉しくもなんともない。
『たまにはいいだろう。将来のことで、色々相談もあるしな』
「将来ね……」
『ちゃんと考えてるのか? いくら医学が発展したと言ってもなぁ』
孫の催促はもう聞き飽きるほど聞いている。だが、跡取りを切望する父親の気持ちもわかるだけに強くは言い返せない。
「わかった、わかった。来週にまた話しましょ。匠さんにも伝えるから」
なかば強引に芳乃は電話を終えた。
毎晩「ありがとう」「おいしい」と声をかけてくれる夫など、本当に実在するのだろうか。
「そういえば、仕事が落ち着いたからしばらくは早く帰れる日が増えるかもしれない」
「そう……」
里帆子の夫に怪しまれでもしたのだろうか。夫の早い帰宅を喜ぶ気持ちは、もう芳乃には残っていなかった。霧斗に会えなくなるかもしれない。そのことを少し寂しく思うだけだ。
その時、リビングの電話が鳴った。相手は父親だった。
「お父さん。どうしたの? 珍しいわね」
『来週のお前の誕生日に家族で食事をしようと思ってな。匠くんにも伝えてくれ』
「ありがとう。でも子供じゃないんだし」
両親に祝ってもらうような歳でもないだろう。それに三十九歳の誕生日なんて、嬉しくもなんともない。
『たまにはいいだろう。将来のことで、色々相談もあるしな』
「将来ね……」
『ちゃんと考えてるのか? いくら医学が発展したと言ってもなぁ』
孫の催促はもう聞き飽きるほど聞いている。だが、跡取りを切望する父親の気持ちもわかるだけに強くは言い返せない。
「わかった、わかった。来週にまた話しましょ。匠さんにも伝えるから」
なかば強引に芳乃は電話を終えた。