金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
 芳乃がふたりに気をとられている間に、霧斗のほうが芳乃に気がつきカウンターから出てきた。

「芳乃さん? 金曜日じゃないのに、珍しいね」

 そう声をかけてきた彼はいつも通りの笑顔を取り戻していた。

「またハンバーグ……」

芳乃はもうこの匂いだけで、お腹いっぱいになりそうだった。明日は難しいと霧斗に伝えると、彼は今夜のデートを提案してくれた。それで芳乃は霧斗のバイトが終わるのを待っていたのだ。

「霧斗くんの言ってた綺麗なもの、お花じゃなかったのね」

 芳乃はクスリと笑いながら言った。彼は花屋でバイトをする理由を「綺麗なものが好きだから」と言っていた。綺麗なものとは、あの子のことだろう。

「やっぱ見られてたか」

 余計な口出しするなと怒られるかとも思ったが、霧斗は怒りもせずにあっさりと認めた。

「二年くらい付き合ってたんだけど……俺じゃ結婚相手にはならないから婚活するって振られたんだ。さっきの男は婚活で知り合った本命みたい」
「同じ女としては、彼女を責められないな」
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