金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
  ごく普通に結婚願望のある三十路の女が、まだ大学に通う彼氏を待ち続けるのは酷な話だ。待ったあげくに捨てられる可能性もはらんでいるのだから。 男目線で見れば、打算だの愛がないだのということになるのかも知れないが、女からすれば結婚適齢期のズレは努力ではどうにもならない大きな障壁だ。なすすべなく、あきらめるより他に道はない。

「わかってる。わかってるんだけど……」

 霧斗の気持ちも痛いほどよくわかる。頭と心は連動しない。頭では理解しても、心まで納得できるものではないのだろう。彼はまだ若いのだから、なおさらだ。
 小刻みに震える霧斗のこぶしを、芳乃はそっと包み込んだ。霧斗は透き通るようなその瞳でじっと芳乃を見つめた。

「埋めて欲しかったのは、俺のほうだったんだ」
「そんなの、どっちだっていいよ」

 ファミレスを出たところで、霧斗が思い出したようにつぶやいた。

「そういえば、今日は薔薇じゃなかったんだね」

 さっき、霧斗の店で芳乃は白いカラーの花束を買った。いつも通り薔薇のアレンジを頼むつもりだったのだが、店先に並ぶそれを見て気が変わったのだ。
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