金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
「カラーって芳乃さんみたいだよね。派手じゃないのに、目を引くっていうか。清々しくて、見てるだけで気持ちが晴れる」
「……ありがとう」
ふいに涙があふれそうになった。かすみ草にもなれないと思っていた自分を、霧斗はそんなふうに見てくれるのか。
「けど、大好きな旦那さんのために薔薇を買う芳乃さんもかわいいと思ってたよ」
少しおどけたように彼は笑ってみせる。
「そうね。大好き……すごく好きだった」
最初から偽りだとわかっていた。匠のくれる笑顔も、優しさも、愛の言葉も、すべて次期院長の座のためだけだと。
芳乃が恋をしたのは匠の幻だ。そして、その幻想にいまだ未練を残している。
薔薇を飾るのも、食事を用意するのも、心のどこかで期待しているからだ。
恋した匠がもう一度姿を見せて、芳乃を優しく抱きしめてくれるんじゃないかと。ずっとあきらめきれずにいた。
けれど、もう認めなくてはいけないだろう。現実の、本物の夫を。生身の匠という人間を受け止めてなくてはならない。
「……ありがとう」
ふいに涙があふれそうになった。かすみ草にもなれないと思っていた自分を、霧斗はそんなふうに見てくれるのか。
「けど、大好きな旦那さんのために薔薇を買う芳乃さんもかわいいと思ってたよ」
少しおどけたように彼は笑ってみせる。
「そうね。大好き……すごく好きだった」
最初から偽りだとわかっていた。匠のくれる笑顔も、優しさも、愛の言葉も、すべて次期院長の座のためだけだと。
芳乃が恋をしたのは匠の幻だ。そして、その幻想にいまだ未練を残している。
薔薇を飾るのも、食事を用意するのも、心のどこかで期待しているからだ。
恋した匠がもう一度姿を見せて、芳乃を優しく抱きしめてくれるんじゃないかと。ずっとあきらめきれずにいた。
けれど、もう認めなくてはいけないだろう。現実の、本物の夫を。生身の匠という人間を受け止めてなくてはならない。