金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
「わかった。腕のいい医者をすぐにそっちに向かわせるわ」

 芳乃は匠と居場所を聞き出すと、通話を終えた。そして、腕のいい医者に電話をかける。

「もしもし、お父さん。これから行ってほしい場所があるんだけど」

 父の外科医としての腕は折り紙つきだ。どれほどの怪我だろうと、匠はきっと助かるだろう。もっとも、その後どうなるかは芳乃の知ったことではないが。

 芳乃はがむしゃらに歩き続けた。電車に乗る予定だったのに、駅を素通りしてひたすら歩いた。霧斗に会いたかった。ただ彼の笑顔に触れたかった。

「芳乃さん? 今日は来られないって言ってたのに」

 髪を振り乱し肩で息をしている芳乃を見て、霧斗は驚く。芳乃は彼に近づくとそっとその手を握った。
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