金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
退屈なランチ会を終えた芳乃はそのまま近所の花屋へ寄った。小さな店だがセンスが良く、花を買うときはいつもここと決めている。
店内はすっかりクリスマスムード一色だった。キラキラに飾り付けられたポインセチアが今の季節のイチオシのようだ。
(そういえば、もう12月か)
仕事もしていない、子どももいないとなると、イベントごとや季節のうつりかわりに鈍感になりがちだ。
「こんにちは、森川さん。すっかり寒くなりましたね~」
「こんにちは」
芳乃はすっかり常連なので、アルバイトの青年はもう彼女の名前を覚えている。
彼は背が高く顔が小さい。白い肌に柔らかそうな茶色の髪。ブラウンのニットにアイボリーのパンツという優しげなコーディネートがしっくりと似合っている。24歳の大学院生らしいと顔馴染みの他の客から聞いたことがあった。
(大学生か。今どきの若い子って感じよね)
ギラギラとした野心が全身からにじみ出ていた匠の若い頃とは全然違う。最近の男の子は中性的だ。
「今日も薔薇ですか?」
「えぇ。いつもと同じ感じでお願いできる?」
「かしこまりました」
アルバイトだが彼のセンスは信用している。いつも薔薇をメインにした花束を作ってもらい、それをダイニングに飾る。
美しい花を飾り、時間をかけて凝ったディナーをこしらえて……ひとりで楽しむのだ。それが芳乃の金曜日の夜の過ごした方だ。
「薔薇、お好きなんですね」
彼にそう言われたが、芳乃はさぁと首をかしげた。
「どうかしら。好きでも嫌いでもない気がするけど」
「じゃ、旦那様が好きなんだ!」
少しくだけた口調で言って、彼は笑った。
店内はすっかりクリスマスムード一色だった。キラキラに飾り付けられたポインセチアが今の季節のイチオシのようだ。
(そういえば、もう12月か)
仕事もしていない、子どももいないとなると、イベントごとや季節のうつりかわりに鈍感になりがちだ。
「こんにちは、森川さん。すっかり寒くなりましたね~」
「こんにちは」
芳乃はすっかり常連なので、アルバイトの青年はもう彼女の名前を覚えている。
彼は背が高く顔が小さい。白い肌に柔らかそうな茶色の髪。ブラウンのニットにアイボリーのパンツという優しげなコーディネートがしっくりと似合っている。24歳の大学院生らしいと顔馴染みの他の客から聞いたことがあった。
(大学生か。今どきの若い子って感じよね)
ギラギラとした野心が全身からにじみ出ていた匠の若い頃とは全然違う。最近の男の子は中性的だ。
「今日も薔薇ですか?」
「えぇ。いつもと同じ感じでお願いできる?」
「かしこまりました」
アルバイトだが彼のセンスは信用している。いつも薔薇をメインにした花束を作ってもらい、それをダイニングに飾る。
美しい花を飾り、時間をかけて凝ったディナーをこしらえて……ひとりで楽しむのだ。それが芳乃の金曜日の夜の過ごした方だ。
「薔薇、お好きなんですね」
彼にそう言われたが、芳乃はさぁと首をかしげた。
「どうかしら。好きでも嫌いでもない気がするけど」
「じゃ、旦那様が好きなんだ!」
少しくだけた口調で言って、彼は笑った。