契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
ホテルの敷地内にある、今年できたばかりのチャペルに隣接するイングリッシュガーデンをひとり歩く。
「風が気持ちいい~」
夕暮れ時の風は少し冷えるが、今の私にはちょうどいい。ひとりになったからか気分も安らぎ、しくしく痛んでいた胃の痛みもきれいさっぱりとは言えないが落ち着いている。
でも少し気を許せばよみがえる記憶に、深い息を吐く。小道の隅にあるベンチに腰を下ろし、ふとチャペルを見た。
「結婚、かぁ……」
さほど遠くない未来に、それはあると思っていた。二十七歳と言えば、結婚したくなるお年頃。周りを見れば既婚者が増え、子どもを授かる人もいる。別にその流れに乗ろうと思ったわけじゃやない、けれど結婚は女性の憧れ。
できれば三十歳までに結婚して、幸せな家庭を築きたい──そう思うのは必然。ごく当たり前のことだと思っていたけれど、私には縁遠いことだったみたいだ。
「しばらく、恋愛はいいかな」
ため息と共に呟いた私の言葉は、冷たい風に飛ばされていく。