契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
「別に不審者じゃないから、そんなに怖がらなくてもいい。さっき同じテーブルにいて、目が合っただろう。覚えてない?」
「お、同じテーブル?」
 
 ああ、ということは結婚披露宴で。そしてそのテーブルで目が合った男性と言えば、ひとりしかいない。
 
 あの人……。
 
 でもだから何だって言うの。顔はなんとなく思い出せても、結局のところどこの誰なのかはわからない。だから今の私にとってこの人の存在は不審者そのもの。

 それなのに私を抱きしめる腕は優しく温かで、身体の震えは止まってしまう。

「離してください」
「嫌だ、離さない」
 
 そう耳元で囁く声は、痺れるようなバリトンボイス。大人の落ち着いたその声は、それだけで私に好印象を与える。でも言っていることはホント理解できなくて、胸の前で組まれている男性の腕をぐっと掴んだ。

「困ります、こういうの……」
 
 どういうつもり? ちょっと甘い言葉をかければどこにでもホイホイついていくような、そんなバカな女に見えた? それとも単なる嫌がらせ?



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