契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 どちらにしてもいい迷惑。ひとりになりたくてここにいるのに、どうして見ず知らずの男性に抱きしめられなきゃいけないのか。

「いい加減にしてください。人を呼びますよ?」
「いいよ、呼んでも」
 
 いいの? 本当に呼ぶよ? あとでごめんなさいって謝っても、もう遅いんだから。
 
 心の中でそう勢い込んだものの、男性はなんら悪びれる様子も見せず私に頬をすり寄せる。それが思いのほか気持ちよくて、途端に勇み立っていた気持ちがシュルシュルと萎んでいき身体から力が抜けてしまった。

「もうホント、何なんですか? 人を困らせて楽しい? もういい加減にして、私のことなんて放っといて」
「放っとけない。披露宴の最中も今もそんな悲しそうな顔を見せられて、放っておけるわけないでしょ」
 
 悲しそうな顔……。

 そうだったんだ。自分では明るく振舞っていたつもりだったけれど、私そんな顔していたんだ。

 全身を覆っていた緊張が解け、身体から力が抜ける。



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