契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました

ショックな出来事


 新ブランドの企画チームのメンバーとの初顔合わは、月菱酒造の主力商品『月菱』を作っているメイン工場ではなく、ブランド商品を作っている酒蔵で行われた。

 企画課の面々はもちろんのこと、月菱の伝統を継承してきた杜氏さんたちも紹介してもらい、時間の関係で簡単ではあるけれど酒造りのイロハを聞くこともできた。

 大吾さんが『自慢の部下』だとだけあってどのひともみんないい人で、新参者の私を快く受け入れてくれて、ホッと肩の力が抜ける。でもそれに甘んじることなく頑張っていこうと、気持ちも新たに心に誓った。

 顔合わせも終わり一通りの説明を受けると、本社へ戻るために大吾さんと駐車場に向かう。するとしばらくして後ろから「待ってくださーい」と呼ぶ声がしてふたり同時に振り向くと、今しがた紹介された杜氏の恩田さんが走って来るのが目に入る。

「坊ちゃん!」
 
 坊ちゃんっ!?
 
 それは誰のことなんだろうと、きょろきょろ辺りを見回す。でも今ここにいるのは大吾さんと私だけで、他には誰の姿も見えない。

 じゃあ恩田さんが呼んだ“坊ちゃん”というのは、もしかして……。
 
 ゆっくりと、隣に立つ人を見上げる。



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