契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました

　相手は私を捨てた男だというのに、そんな彼を見てまだ悲しいと思うなんて、私は救いようのないバカだ。

　そして今、後ろから私を抱きしめている彼も同じ。私みたいな女放っておけばいいものを、物好きにもほどがあるとしか言いようがない。

「赤の他人なのに放っておけないとか、なにが目的なんですか？」
　
　男性の腕を掴んでいた手を離すと、男性も私を抱く腕を解いた。そしてゆっくりと歩き、私の前で腰を曲げてしゃがみ込んだ。

　目線が男性と同じ高さで重なり、眉目秀麗な顔に思わず息をのむ。同時に胸が高鳴った。
　
　面長で高く整った鼻梁。全体的に彫が深く、それはどこか異国の雰囲気を漂わせ、清潔感のある黒髪は風に無造作になびいている。

「目的？　そんなものなにもない。ただその君の悲しみを、僕に分けてほしい」
　
　私のことを真っすぐに見つめる目は、嘘を言っているようには見えない。けれど男性が言っていることを、鵜呑みにすることもできない。