契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
「彼女は私の第二秘書です。斎藤が忙しいときは、彼女に同行をお願いしています。天海さん、こちらへ」
 
 第二秘書──。

 私を呼ぶ声は優しく、でもどこかよそよそしい。そう感じるのはたぶん、田町さんがいることと、“天海さん”と呼ばれたから。もちろん今が仕事中で、名前で呼ぶのがおかしいことくらいわかっている。でもいつもみたいに八重と呼ばれなかったことが、私の心に薄っすら影を落とした。
 
 でも仕方ない。私と大吾さんの関係は偽装。大吾さんは『今から恋を始めればいい』と言ってくれたから気持ちが動き出してしまったけれど、それだって今後どうなるかわからない。
 
 私たちの関係は、ずっとあやふやなままだ。

「初めまして。天海八重と申します。田町さんのご活躍は、常々テレビで拝見させて頂いております」
 
 それでもここは大人な対応をと、笑顔で控えめに挨拶をする。それは相手も同じだったようで、さっきみたいな冷ややかな目は一切見せない。

「ありがとうございます。菱川さん、綺麗な秘書さんですね。こんな方がいつもそばにいるなんて、ちょっと妬けちゃうわ」
 
 田町さんはそう言って、大吾さんの腕に自分の腕を絡める。えっ?と一瞬表情を崩しそうになってそれを既のところで回避、その様子を何気なくかわす。



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