契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 今どき、初めて会った他人に悲しみを分けてほしいなんて言う人がいる? それだけでも疑うべきだろう。

「私のことなんて、なんにも知らないくせに……」
 
 以前からの知り合いでもない、たまたま今日の披露宴で同じテーブルになっただけの女に、どうしてそんなことが言えるのだろうか。

「だったら教えてくれないか? 君のことをもっと知りたい」
 
 膝の上にあった私の手に、男性が手を重ねる。優しく包み込むと、無垢なでも真剣な眼差しを私に向けた。心臓がドキリと跳ねる。

「このままひとりにはさせておけない。今夜、君を帰したくない」
 
 その言葉の意味がわからないほど子供ではない。でもこういうことの経験値が絶対的に低く、男性の意味深な言葉に何も答えることができない。

 それでも何か言わなくてはと口を開きかけたとき、男性が不意に私の手を引き彼との距離が縮まる。美しく整った顔が近づき、あっと思う間もなく唇が重なった。



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