契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました

「急だが、会合が入って今晩から京都に行くことになった。出張だ。土曜には戻る」

 朝食を食べながら大吾さんはそう言うと、ニンジンジュースを飲み干した。

「京都ですか。斎藤さんとご一緒に?」
「ああ。八重にはしばらく留守を頼む。でももし寂しいと言うのなら、京都に一緒に行くか? 仕事は休んで構わない」
 
 そう言うや否や、大吾さんはテーブルの上に置いてあるスマホを手に取り電話をかけようとするから、慌てて席を立ちその手を掴んだ。

「まさかと思いますが、斎藤さんに電話を?」
 
 いつものように「ああ」という大吾さんを見て、やっぱりと項垂れる。

 心配してくれるのはありがたい。三日間ひとりだと思うと正直寂しいけれど、私ももう立派な大人だ。一生離れ離れになるわけでもないのに、無関係な私が大事な出張についていくわけにはいかない。

「子供じゃないんですから大丈夫です、ひとりでちゃんと留守番できます。こんなことで仕事も休みません。私も月菱酒造の社員ですよ、大吾さんが出張するからと休んでいたら笑われてしまいます」
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