契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 それでなくても恵まれた環境下で働かせてもらえているというのに、これ以上贅沢は言っていられない。
 
 もともと仕事をすることは嫌いじゃないし、新しい職場で新しい仕事を覚えるのは楽しみとしか言いようがない。

 最初は私なんてと思っていた新ブランドの企画チームにかかわることができるのも、その楽しみのひとつ。大吾さんが出張でいないのなら、その間に日本酒についての知識を深める絶好のチャンスだと思っている。

「そうか、八重がそう言うなら仕方ない」
 
 大吾さんの左手を掴んだままの私の手に、彼の右手が重なる。スルッと優しく撫でると、両手で私の手を包み込んだ。

「早く帰るから待っていてくれ」
「はい。お待ちしています」
 
 大丈夫。偽装で始まった私たちの関係は、この幸せな時間はこの先ずっと続いていく。

 このときの私は大吾さんの手のぬくもりにそう信じて、ただ彼のことを真っすぐに見つめ続けた。




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