契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 それでも興奮が冷めきらず疲れきった身体では眠ることはできず、彼が寝静まったころを見計らいベッドを出ると彼に何も告げずひとりホテルを出た。

 もう二度と会うことのない人──。

 身体を重ねたからだけじゃない、彼の本当の優しさに触れて、僅かながらに芽生えた彼への恋心は胸の奥底にしまう。振り返りホテルを見上げると、「ありがとう」と呟き家路へと向かった。

 次の日から何事もなかったように、普通の日常を過ごしている。

 ひとつ変わったことと言えば、あれからすぐに会社を辞めたこと。さすがに元カレ夫婦がいる会社では、働き続けることはできなかった。

 体調を不良という嘘の病気を理由に、「会社を辞めたい」と申し出たところすぐに受理。上司に「病気を克服したらまた声をかけて」と言われたときはさすがに申し訳ないと胸が痛んだけれど、これしか方法が見つからなかった私は逃げるように会社を辞めた。

 でも気持ちは晴れ落ち着きを取り戻し、すぐに就職活動を開始。



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