契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 幸いなことに一社目の面接で採用が決まり、まだ天に見放されていなかった、私の人生まだまだこれからだと大喜びしたのは記憶に新しい。

 世間は楽しかったゴールデンウイークも終わり、バスの車内は憂鬱そうな表情をしている通勤客が多いが、私はひとりつきものが落ちたかのように清々しい気持ちだ。

 向かっているのは、来月からお世話になる『月菱酒造(つきびししゅぞう)』の本社。入社までまだ幾日かあるが、それに際しての説明と書類提出に来社してほしいということなのだけれど。

 バッグの中から封筒を取り出し、中に入っている書面をもう一度確認する。何度見てもそこには【直接、社長室まで来てください】と書いてあって、首を傾げるしかない。
 
 どうして社長室なんだろう。こういう場合は、受付あるいは人事課に行くのが通常じゃないだろうか。
 
 会社に近づくにつれ緊張感は高まり、憂鬱になってくる。天気は相変わらずの晴天なのに、アパートを出たときのいいことがありそうな予感はどこかに消えてしまった。



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