契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 大吾さんは勝手に話を終えると、エグゼクティブデスクへ戻っていく。デスクの前にひとり残された私は、大吾さんの最後の言葉を頭の中で反芻していた。
 
 俺の妻として生活を共にしてほしい──。それはもしかしなくても、そういうことなんだろうか。
 
 ゆっくりと目線を動かし、それはすぐ大吾さんに到達する。デスクの引き出しからペンを取り出した大吾さんに、それとなく聞いてみた。

「社長」
「違う、大吾だ」
「あ、すみません。大吾さん?」
「なんだ?」
 
 婚姻届けのまだ空白の欄に記入を始めた大吾さんは、私を見ることなく返事をする。

「その。生活を共にしてほしいというのは、一緒に暮らすということですか?」
「当たり前だろう。結婚して一緒に暮らさない夫婦がどこにいる。こっちで全部手配してあるから安心しろ。新居はここだ」
 
 大吾さんの手から渡されたのは、超が付くほどお高いマンションのパンフレット。ベイエリアにある高級ブランドマンションで、どこかで耳にしたことがあるが、たぶん一億はくだらない分譲マンションだったはず。



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