契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 やっていることや言っていることはめちゃくちゃなのに、私のことだけじゃなく両親のことまで考えてくれている大吾さんに、少なからず心が揺れる。

 でも終わりが見えている結婚なんて、本当の意味での安心には程遠いけれど。

 本当にこれでよかったのかな……。
 
 婚姻届けに住所を記入する大吾さんの手を見つめ、心の中でぽつりと呟く。

「あとは八重のサインだけだ」
 
 デスクの上で私のほうへと向けられた婚姻届けに目線を落とす。大吾さんからペンを受け取った手が、かすかに震えた。

 提出されない婚姻届け──。

 それが何を意味するのか。一時のこと、偽りだとしても大吾さんの妻になるという事実に、胸の鼓動は高鳴る。サインを書く瞬間は、緊張するというものだ。

 私の心の内を、どうか気づかれませんように……。

 気持ちを落ち着かせ震えそうになる手を抑えると、不本意なまま妻となる人と書かれた下に【天海八重】と自分の名前を書き入れた。





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