契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 衝撃どころか何か温かいものに包まれている感覚に、閉じていた目をゆっくりと開ける。そしてそれが大吾さんの腕の中だとすぐに気づき、慌てて離れようとした身体を今度は強く抱きしめられてしまう。

「す、すみません」
「もっとしっかりとした女性だと思っていたが、案外そそっかしいんだな。ちゃんと前を向いて歩けよ」
 
 頭上から聞こえる言葉はひどくぶっきらぼうだが、その言葉尻は優しい。でも前を向いて歩けだなんて、子ども扱いされているようで悔しい。
 
 それでも助けてもらった手前、そんなことくらいで文句を言うのも気が引けて、彼の腕の中でおとなしくしていた。

「業者には搬入から荷解きまで頼んであるから、マンションには昼食を取ってから向かう」
「そうなんですね、わかりました。なにからなにまで、大吾さんにお任せしてしまってすみません」
「夫として当たり前のことをしているだけだ。謝る必要はない」

 大吾さんはそう言ってから、車へと促すように私の背中に軽く触れた。


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