契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 それはとても自然な仕草で、まるで大切なものを扱うように優しくてちょっぴり嬉しくなってしまう。

 でもこんなこと大吾さんには当たり前のこと、それになんの意味もない。夫として──その言葉だって私たちの関係は契約上の話なのだから、きっと冗談を言っただけ。

 そうわかっていても、顔が熱くなるのを抑えられない。でもそんな顔を見られるわけにはいかないと、助手席に乗り込むと悟られないように俯いた。

「なんだ、疲れたのか?」
 
 突如右耳から声がして顔を上げる。いつの間に移動したのか運転席に大吾さんがいて、慌てて首を横に振った。

「そんな、疲れてなんていません」
 
 というより、今日の引っ越しは全部業者の人たちがやってくれて、私はただ見ていただけ。そんな状態なんだから、疲れるはずがない。

 でも多少疲れたというのなら、気疲れだろうか。見ているだけなんて慣れなくて、あっちに行っては「すみません」こっちに行っては「ありがとうございます」なんてしていたら、申し訳ない気持ちばかりが募ってしまった。



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