契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
今から恋を始めましょう
「あそこに見えるのが、今日から俺たちが暮らすマンションだ」
少し離れたところに車を停めた大吾さんが私にそう話しかけると、助手席側のパワーウィンドウが下がり始めた。
駅近の立地にそびえ立つ、四十八階建てのタワーマンションを車の中から仰ぎ見る。
黒を基調にしたガラスカーテンウォールの外観はひと際目を引き、デザインの美しさもさることながらこのあたりの目印的存在になっているようだ。周辺には多彩な都市機能が共存していて、海辺や緑の豊富な街づくりがされている。
「あんな素敵なマンションに、私なんかが住んでもいいんでしょうか?」
ボーッと眺めていたら、そんな言葉が勝手にぽろっとこぼれてしまう。
ごく普通の一般家庭に育った私が、足を踏み入れたことのないような場所。聞けば住んでいるのは、会社の社長や官公庁のお偉いさん、大学の教授や医者、芸能人などと選ばれし人たちばかり。普段の私が出逢うことのない、特別な人たちだ。
「八重の言っていることの意味がわからない。マンションに住んでいい人物と住んではいけない人物がいると、お前は言いたいのか?」
でも大吾さんには私の言いたいことは伝わらなかったみたいで、眉間に深いしわを寄せた。