契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 手を引かれエレベーターを出ると、エレベーターホールも驚くほど豪華だ。壁には絵画が、床には大きな壺が飾られていて、ちょっとした美術館のよう。

「この階は俺たちが暮らす部屋しかない。他の住人と会うこともないから、安心して生活ができるはずだ」
 
 大吾さんはそう言いながら私の手を引いて、玄関らしきドアのほうへと歩き出す。ドアにキーをかざしカチャッと鍵の開く音が聞こえると、大吾さんがドアを開けた。

「え? 嘘……」
 
 目の前に見たことがない広さの玄関ホールが現れて、これが本当に玄関なのかとその場に立ち尽くす。ここだけでも生活ができそうで、あまりのレベルの違いに足が震えだす。

「八重、どうした?」
 
 大吾さんは握っていた手を離すとそれを私の腰へと回し入れ、身体が密着するようにグッと抱き寄せた。

「き、緊張してしまって」
「今日からここが俺たちふたりの家になるんだ、早く慣れてくれ」
 
 トントンと背中を優しく撫でると、大吾さんは先にリビングへと歩いていった。



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