契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
雨夜の月
「少し仕事の話をしたい。こっちに来てくれ」
コーヒーの入ったカップを持った大吾さんが、リビングへと歩き出す。あとをついていくと隣に座れと促され、言われた通りソファに腰を下ろした大吾さんの隣に座った。
「前職は、営業だと聞いたが?」
「はい。と言っても営業は異動して一年ほどで、その前の商品企画部に五年ほど所属していました」
「商品企画か、それはいいな」
大吾さんはそう言いながら立ち上がり、ダイニングテーブルから大きな封筒をもって戻ってきた。
商品企画のなにがいいのか。大吾さんを目で追いながらそんなことを考えていたら、目の前にスッと一枚用紙を差し出される。
「辞令だ。八重には来月から、秘書室に勤務してもらう」
「秘書室? 私がですか?」
思ってもみなかった辞令に驚いて、大きな声をあげてしまう。でも秘書室なんて言われたら、おとなしくしてはいられない。
「全く経験がありません。お役に立てるかどうか……」
自分は一社員で、出された辞令に文句を言える立場じゃない。でも秘書だけは向いていない、それは自分が一番よくわかっている。