契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 だって私はここへ、彼氏や男友達を探しに来たわけじゃない。まだしばらく誰とも付き合うつもりもないし、元カレの結婚披露宴に出席しているのだから今はそれどころじゃない。
 
 大きなため息が出そうになるのを堪え、それを必死に飲み込む。

 会場が暗くなり、司会者が披露宴の開始を告げる。同時に音楽が流れだし大きなドアにスポットライトが当たると、会場内のボルテージが一気に上がった。大きな拍手が湧き上がると、そのドアがゆっくりと開く。

明人(あきと)……」
 
 思わず呟いてしまった元彼の名前は、アップテンポな曲調の音楽に吸い込まれ消えていく。

 彼のことなんてとっくの昔に忘れた、もうなんとも思っていない──そう思っていた身体は相当ダメージを受け、勝手に涙が溢れてくる。
 
 私って結構、未練がましい女だったんだ。今更泣くなんてバカみたい……。
 
 そう思うのに、涙は止まりそうにない。今は会場内が暗くて誰にも見えてないだろうからいいけれど、明るくなったら厄介だと慌ててその涙を拭った。



< 7 / 172 >

この作品をシェア

pagetop