契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 もし誰かに目が赤いことを指摘されたら、ゴミが入ったとでも言っておこう。
 
 そんなどうでもいいことを考えながら目を動かすと、新郎新婦が私たちのテーブルの近かずいてくるのが見えた。心臓の動きが急速に速くなる。

 どうしようかと悩みに悩んだ挙句、結局みんなと同じように拍手をし顔に笑顔という面を貼り付けるとふたりを迎え入れる。

「加奈ちゃん。お、おめでとう」
 
 祝う言葉がたどたどしい。

「天海先輩、ありがとうございます──」
 
 そんな彼女の声は、私の耳に入っていない。彼に向けた視線が固まって動かせない、この空間だけが止まっている。そしてまた彼も私を見て、動揺するように視線を揺るがせた。
 
 もしかして、私が出席することを知らなかった? ということは……。
 
 かろうじて動かすことができるようになった瞳を、加奈ちゃんに向ける。すると彼女は、策士だと言わんばかりの皮肉な笑みを私に向けた。



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