契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 やられた。

 そんな言葉が、何度も頭の中を行き来する。即座に状況を理解した私は、悔しいけれど彼女から目を逸らした。

 加奈ちゃんは彼との関係を知っていて、今日の披露宴に私を呼んだんだ。
 
 そんなこととは露知らず、精一杯着飾ってのこのことやってきた私は、なんてお人好しなんだろう。
 
 完全に私の負け──。
 
 そう悟った瞬間、何もかもがどうでもよくなってしまった。

 彼と別れたのは、もう半年以上前のこと。今更負けもなにもあったものじゃないけれど、まさか自分がこんなにも傷つくとは思ってもみなかった。
 
 披露宴はまだ始まったばかり。気分が悪いと席を立つには、まだ早すぎる。どうしようもない気持ちを持て余し、途方に暮れる。

 こんな思いをするなら小梅の言うことを聞いて、来なければよかったと思ってもあとの祭り。司会者がふたりのなれそめを語りだし、主賓の挨拶へと進む。披露宴はここからが長い。
 
 そして、耐えること二時間半。

 ホテル内にあるレストランの総料理長が腕を振るったご自慢の料理の数々にほとんど手を付けることなく、足早に会場を後にした。





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