【完結】吸血侯爵と没落メイドの囚われ初恋契約
王に無断で自身の婚約者を決定し、勝手に発表をしている。事実上王太子はここで自らの王位継承権を放棄したも同義だ。王太子には弟が二人いる。その二人の王子はまだ幼いものの、あと数年経てば立派な王子として社交界にも顔を出すことになるだろう。
婚約とは、家同士を繋ぎ結ぶもの。勝手に破棄していいものではない。ましてや王家の身分であるならばなおさらだ。しかし王太子の隣に立つ男爵令嬢は、まるで周りが見えていないかのように扇子を振るい、公爵令嬢に対して不躾な目を向けた後、自分たちを取り囲む周囲の中、ある一点を見つめて微笑みかける。
すると、社交界の人々は、次々とそちらへ視線を集中させ、一様に憐みの目を向けていく。みなの視線の先に立つ令嬢は、紅を含んだ暗い朽葉色の髪を揺らし、淡い蒼玉のような瞳でただ目の前の光景を映していた。
虚ろな瞳で、ただじっと前を見据える令嬢の名はルネリア。王太子の隣にいる男爵令嬢の妹、今まさに破滅が約束されたハーミット男爵家の娘だった。