最終列車が出るまで


「いっちゃん、なっちゃん、ごめんね!ありがとう!!」

 二人に頭を下げてから、大慌てで準備を始める。

 一番最初にしたのは、朝食用に買っていたクロワッサンとホットココアを、二人の前に置く事。

 歯みがきをして、髪型を整える。メイクを直し、膝丈のニットワンピースに着替える。

 最寄り駅までは、急いで歩くと五分もかからない。

 普段は自家用車での移動ばかりだから、全く列車を利用しない。切符は買わなきゃいけないし、慣れなくて緊張する。だから、できるだけ早めに出て、駅に到着したい。

 コートを羽織りながら、娘達にいつも言っている注意事項を繰り返す。

「「は~いっ!」」

 ……返事はいい。すごくいい。良すぎて、逆に心配になるくらいだ。二人の瞳がキラキラしていて、ワクワクしているのが伝わってくるから。

 何をそんなにワクワクしているのか?深く考えると、不安ばかりになるから。仕方なく今日は、考えるのをあきらめた。

「「いってらっしゃい、気を付けてね!がんばってね!」」

 ご機嫌な二人に送り出され、何にがんばるのよ…と苦笑を浮かべる。

 いつ頃からか、私が出かけると言っても動揺しなくなった娘達。

 二人とも三才くらいまでは、私がトイレの扉を閉めるのも嫌がったくせに。

 娘達の成長が嬉しいような、寂しいような。そんな複雑な母心を抱えながら、ショートブーツのヒールを鳴らして駅まで歩いた。

 最寄り駅に着いた時には、急いで歩いたので息が上がっていた。

 年かな、運動不足だし。おそらくその両方だろう。



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