最終列車が出るまで


 やっぱり、甘い物がいいな。カフェラテだと、いつも飲んでるし、ココアは家でも飲めるしな。

 さまよっていた視線が、ふと止まる。ミルクティー、か。よし!ミルクティーにしよう!

 財布を取り出し、小銭を自販機に落としていく。

 背後でカツカツと足音が近付いてきて、私の少し斜め後ろで止まった。たぶん、自販機に飲み物を買いに来た人だろう。

 あっ、早く前を譲らなきゃ!なんて考えながら、職場でたまに飲むブラックコーヒーのボトルが目に入る。

 指が自然に動き、無意識にボタンを押していた。そこだけ、真っ赤に光る。

「っっ!!間違えたっ!」

 思わず声を上げてしまったのは、酔っていたからだろうか?

 ガコッ!と缶が落ちてきた。おそるおそる取り出してみると。

 それはやっぱりというか当然、見慣れたブラックコーヒーのボトルだった。

 温かいミルクティーに、癒されるはずだったのに……

 ブラックコーヒーを持ちながら、ガクッ!とうなだれた。そのまま二、三歩斜め後ろに下がり、自販機の前を空けた。

 ボタンを押す直前、目に入ったブラックコーヒーのボタンを、思わず押してしまった。

 甘い物が欲しかったのに。よりによって、ブラックコーヒーなんて!

 やってしまった事を、自分自身に『なぜ?』と問いかける。老化なの?なんでも、それのせいにするのはね。ただのおっちょこちょい?情けなさが、募るばかりだ。

 後悔とか落胆とか、そんなものに苛まれていた時だった。

「何を飲むはずでしたか?」



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