最終列車が出るまで
男の人の低く落ち着いた声が、頭の上から聞こえた。柔らかく響く、すてきな声だと思った。
「ミルクティー……温かいミルクティーを、飲むはずでした」
うなだれたまま、そう答えた。
見ず知らずの人に声をかけられて、躊躇なく答えてしまったのは、やはり酔っていたからか。そのすてきだと思った声を、また聞きたいと思ってしまったからか。
自販機に小銭を落とす音がした。さきほど聞いたガコッ!という音が再び、静かな駅の構内に響いた。
うなだれていた私の目に、黒い革靴が入り込む。
「そちらと、交換してください」
下向きに落ちていた私の視線の先に差し出されたのは、ホットミルクティーの小さめなペットボトルだった。
両目を瞬かせて、ミルクティーの先を辿って見上げた。
わっ、めっちゃカッコいい……
微かに微笑みを浮かべたその顔は、とても端整なものだった。
ダンナの身長は一八五センチだが、おそらく彼も同じくらいだろう。顔の大きさは、彼の方がはるかに小さいけれど。
スッキリと短めの黒髪は、清潔感がある。黒のスーツに、青色の斜めストライプのネクタイ。ダークグレーのチェスターコートが、よく似合っている。
スーツのモデルさんになれるね。オーダーメイドや有名ブランドの、絶対、高級品の方の!
年は……三十代前半から半ばくらい?二十代と言われても違和感はないが、落ち着いた雰囲気やそこはかとなく漂う色気が、“大人のオトコ”を感じさせる。
うん。十以上年下の可能性、有りだ。